ドリームヘルパーセレモニー
(個人を対象とした問題解決技法)
文責:小林敦
■DHは夢の公共性を用いた集団セラピー
これからご紹介する集団ドリームワークは、奇跡でも何でもありません。れっきとした「夢学」の一分野です。なぜなら何度繰り返しても同等の効果が得られるからです。
ただしこれは、極めて特殊な夢の活用法を前提としています。これは、「ドリームヘルパー」ないし「ドリームヘルパー・セレモニー」と呼ばれるものです(以降、「DH」と表記)。
もともとは、ネイティヴアメリカンの儀式に端を発していますが、1970年代、心理学者のヘンリー・リードらによって洗練されたメソッドとして開発され、実践されてきました。その基本コンセプトは、リード博士がみた夢がヒントになっているといいます。
日本では、日本夢学会の姉妹団体である「ドリームフレンド・風」が1997年より、リード博士のやり方を踏襲して「ドリームヘルパー・セレモニー」を行なっています。さらに、別の一団体が「ドリームヘルパー」の名称で行なっていることが確認できていますが、この団体が行なっている内容に関しては未確認です。
普段私たちは、夢とは純粋に個人的・主観的体験だと思い込んでいます。しかし、普通に生活している日常の意識状態にある私たちは、人と人との間、家族・学校・職場・地域社会、さらには国や国際社会の文脈から切り離して考えられる存在ではありません。
では、夢の中ではどうでしょう。夢は深層意識(無意識)から立ち現れるものだということを疑う人はいないでしょう。さらに、ユングに言わせるなら、私たちはその深層意識の部分で、全人類と時空を超えてつながっているといいます。私たちは、目覚めて活動しているときも、寝ているときも世界の文脈の中に存在しているわけです。したがって、夢をみている最中も、他者とつながっていないはずはありません。つまり、夢には本来、個人性と公共性の両方の側面があるのです。
ただし、夢をみている間の他者とのつながりは、日常的な意味合いとはだいぶ勝手が違うようです。まずもってそれは、無意識領域を通してのつながりであるため、「誰かと対面して言葉を交わす」という類のコミュニケーションではありません。いわば、普段は意識していない「未開拓のつながり」を用いたコミュニケーションです。
「夢(無意識)を通して他者とコミュニケーションするとはどういうことなのか?」
この稀有な体験を味合わせてくれるのが、DHです。その効果は、他では味わうことのできない癒しであり、赦しであり、気づきであり、導きであり、問題解決なのです。総じて言うなら、極めて特殊な「集団セラピー効果」とでも呼べるものです。
■DHは特定の方法論に寄りかからない
考えてみてください。あなたがカウンセラーないしセラピストだったとします。あなたはそれに必要な心理学理論を勉強し、あるメソッドを覚え、臨床経験を積んで、その職業に就きました。もちろん、自分が習い覚えたノウハウを用いて、日々クライアントに向き合っています。場合によっては、集団を対象にしたワークショップなども開催するかもしれません。さてそこで、自分が会得し、実践しているノウハウが万人に有効であるとする根拠はどこにあるでしょう。あなたは、自分の個人的な尺度でクライアントの状態を判断し、その結果を押しつけることにならないでしょうか。ドリームワークの場合、あくまでクライアントがみた夢を判断対象にするため、比較的専門家エゴが入りにくい、という事情はあるものの、それでもやっぱり特定の夢分析技法にとらわれる傾向はあるでしょう。
ところが、DHの場合、夢という主観的な現象を用いながらも、夢が持つもうひとつの側面である「公共性」の部分に焦点を当てることで、想像をはるかに超える共時性や共感性が発揮される、という現象が起こってくるのです。
■DHは個人向けの問題解決メソッド
もう少し具体的に見ていきましょう。
まず、DHの大まかな流れを示しておきます。
○DHは数名のグループで行ないます。まず、このメソッドのナビゲーター役が一人います。次に、参加者の中から個人的な悩みの提供者を一人選定します。その他の参加者は「ドリームヘルパー」の役割となります。
○普段私たちは、純粋に自分のために夢をみます。みた夢は100%自分の所有物です。ところが、このセレモニーのときだけは、「ドリームヘルパー」たちは、純粋に他者のために夢をみるのです。みた夢は、自分のものではなく、他者に捧げるもの、他者の悩みを解決するために供するものとなるのです。
○悩みの提供者は、自分が個人的に抱える悩みや問題をひとつ選定し、それを事前にメモに書いて、その内容は誰にも知らせず、メモを枕元に置いて、ヘルパーたちに向けてその内容を発信するイメージを持ちながら就寝します。
○ヘルパーたちはその夜、悩みの提供者から何らかの情報が送られてくる前提で就寝し、翌日みた夢を持ち寄って検討会を開きます。悩みの提供者もそこに同席しますが、検討の間はいっさい口を挟まず、黙って傍観しています。
○ヘルパーたちは、自分たちのみた夢の中から共通項を洗い出し、それらをもとに、悩みの提供者が抱える問題がどんなもので、その原因は何か、また解決策としてどんなものが考えられるか、その解決策を実行したらどうなるか、といった仮説を立て、全員の合意のうえでそれをひとつにまとめます。
○そこまで終わった後に、初めて悩みの提供者がメモした内容が発表されます。悩みの提供者は、ヘルパーたちから提示された仮説が、自分にとってどのような意味のものかをシェアし、ヘルパーたちもその悩みや解決策と、自分が抱える問題や人生との関連性などに関して感想を述べます。
このセレモニーによって毎回起きるのは、その日初めて会ったような他人と自分との共通性に、悩みの提供者もヘルパー役もまず驚かされる、ということです。悩みの提供者は、赤の他人の夢の中に、自分が抱える問題がなぜここまで反映されるのかに驚かされます。しかもそこには、自分が今まで誰にも話したことがない(あるいは自分も気づいていない)ような細かい背景の部分だったり、その悩みの根底にある深層部分だったりも含まれていたりするのです。
またヘルパーたちも、その日初めて会ったような赤の他人が抱える悩みが、なぜこれほど自分の未消化な人生の課題とシンクロするのか、驚かされるのです。さらに、他者の悩みの解決のために一晩夢をみて、それを翌日他のヘルパーたちの夢と突き合わせ、まとめ上げた原因と解決策が、どれほど自分にも当てはまるかに驚かされるのです。
■DHの実践例
具体的な事例をいくつか見ていきましょう。
これはリード博士が経験した事例です。このときは、若い女性が悩みの提供者になりました。提供された悩みは、つい最近の婚約解消のことでした。ところが、ヘルパーたちの夢に暗示されていたのは、主に病気のことでした。実はその悩みの提供者は慢性病を抱えていて、さらに解消された婚約の相手も病気を抱えていたのです。さらに、婚約解消の深層部分には、女性側にも男性側にも、それぞれの母親との確執があったのです。その事情は、あるヘルパーが長年の間に抱えていた母親への心理的依存とシンクロしていました。
この若い女性は、DHで提出された助言に従い、一年後、アパートを借りて親元から自立し、母親と一緒にグループセラピーに通い始め、持病の新しい治療法を試し始めた、ということです。
参考文献:
○ヘンリー・リード著『ドリーム・ヘルパー』桜井久美子訳(たま出版1994)
※本書は1997年以降、「夢ヒーリング」という邦題で再版されています。
以下の2つは「ドリームフレンド・風」での事例です。
あるときのDHでは、熟年の主婦が悩みの提供者になりました。提供された悩みは、長年におよぶDV(家庭内暴力)の問題でした。ヘルパーたちの夢には様々なイメージが表れ、それが具体的に何を暗示するのか、よくわからない部分もありました。
しかし、この悩みの提供者は、ヘルパーたちから提示された仮説を実行に移しました。それは二年にわたる挑戦でした。すると、いつの間にかDVは収まっていたのです。そして、二年間を振り返ってみると、ヘルパーたちの夢に表れた様々なイメージが、随所で現実になっていることに気づいたのです。
またあるときのDHでは、中年の男性が悩みの提供者になりました。その男性は結婚していて子供もいましたが、結婚生活は破綻しかけていて、離婚すべきかどうかが悩みでした。このときも、ヘルパーたちから様々なイメージが提示されましたが、結論は「離婚」を示していました。男性は決意し、離婚に向けて動き出しました。結局離婚が成立するまで三年がかかりました。そのプロセスにも、ヘルパーたちから提示されたイメージが関わっていましたが、ひとつだけ意味がわからないものがありました。それは幾何学的なイメージを伴う数字でした。その数字を「人数」と解釈するなら、明らかに「離婚は当人同士だけの問題ではない」という暗示でした。つまり、その数字が表すものは、その男性の離婚後の人生にもついて回る課題となったのです。
このように、DHは単に提出された悩みの原因と解決策を導き出すだけではなく、その悩みの提供者が根本的に抱える人生の課題をあぶり出し、さらに長きにわたって継続した影響力を及ぼすような結果を生むものなのです。そして、その影響力は、他者の問題解決のために夢をみたはずのヘルパーたちにも及ぶものなのです。その点に関しては、このセレモニーを司るナビゲーターも例外ではありません。
DI技法(集団を対象とした問題解決技法)
DI:画期的な問題解決技法
文責:小林敦
■DI技法とは?
「DI」とは、組織や集団に発生する問題に対し、その構成員がみる夢を集めて、それを独自の手法で分析し、それによって問題の原因と解決策を導き出す、という画期的な問題解決技法です。
DIの「D」は「Dream」を表します。「I」は「Incubation(孵化)」「Information(情報)」「Innovation(変革)」の3つの意味です。
■意識レベルを変えないと問題は解決しない
問題解決の技法には様々なものがあります。ブレインストーミング、クリティカルシンキング、構造化分析、KJ法・・・。
皆さんすでに何らかの技法を用いて、組織や集団に発生する問題を解決しているかもしれません。
しかし、こうした既存の問題解決技法に共通する問題点があります。それは、導き出される解決策の「質」が、その技法を用いる人間の意識レベルに依存してしまう、ということです。
これは如何ともし難い問題のように思えます。
「発想の転換」とはよく聞く言葉ですが、日頃から慣れ親しんだ発想を180度転換することは、それほどたやすいことではありません。しかし、発想の転換がなければ問題の解決もありません。問題の解決とは本来、意識レベルのイノベーションを伴わない限り、達成できないものです。
アインシュタインがこんなことを言っています。
「問題を作り出したのと同じ意識レベルで、問題を解決することはできない」
DI技法はまさに、問題を作り出した意識レベルから、夢(無意識)の力を借りて脱却することを可能にするものなのです。
アインシュタインの言葉を端的に示す例をご紹介しましょう。
発達心理学者のクレア・グレイブスがある実験を行ないました(参考:フレデリック・ラルー著「ティール組織」英治出版)。
グレイブスはまず、ある集団を行動の主な拠りどころとなっているパラダイムにもとづいてグループ分けし、複数の回答があり得る問題を出し、その解決策を見つけ出すよう求めました。すると、もっとも高いレベルのパラダイムを持つと思われるグループが、他のグループ全体が見つけ出した解決策の合計よりも多くの解決策を見つけ出したといいます。しかも解決策の質は、他のグループよりも驚くほど優れていたというのです。さらにこのグループがひとつの解決策に到達するまでの平均時間は、他のどのグループよりも圧倒的に短かったそうです。
つまり、このグループは、他のグループが考えつくことはすべて考えつくことができ、なおかつ他のグループが決して考えつかない、より高度な内容のことを容易に(短時間に)考えつくことができる、ということです。
■夢で心理的ブロックを外す
酷な言い方ですが、意識レベルの高い人だけを集めて組織を作れるなら、常に高度な問題解決を期待できます。
しかし、実際の組織運営ではそうはいきません。
では、意識レベルにバラつきがある一般的な組織や集団に問題が発生したとき、どのようにしたら高度な解決策を導き出すことができるでしょう。
それはいわば、私たちの通常の意識が持つ「心理的ブロック」をいかに外すか、という問題に置き換えることができます。上記のアインシュタインの言葉は、まさにこのことを物語っているでしょう。
集団に発生する問題は、関係者の意識下では、すでにその本質が暗黙裏に認知されている場合がほとんどです。しかし日常的には、社会通念、常識、偏見、利害関係、決まりきったものの見方や感情にとらわれているため、それらによってブロックがかかり、問題の本質はなかなか表には現われず、言語化されないのが実状のようです。つまり「何となくモヤモヤしているが、ハッキリとは口に出せない」という状態です。
このように心理的なブロックがかかった状態で、いわば人間の論理的思考プロセスをモデル化した既存の問題解決技法を当てはめると、「論理的なプロセスを踏んだのだから、出てきた答えは最良のはずだ」という落とし穴に陥りやすく、理性面では納得していても、感情や感覚的な部分では相変わらずモヤモヤしているという状態のまま、結果を無批判に受け入れてしまう、ということになりかねません。このように、既存の問題解決技法の場合、論理的であるがゆえに左脳に偏重する傾向があります。かといって、意識的に右脳を活性化させようとしても、そう簡単にいくものではありません。
そこで、日常の意識が持つ心理的ブロックを乗り越え、構成員の無意識にアクセスして、左脳と右脳の両方を満足させる質の高い問題解決策を導き出すべく開発されたのがDI技法です。
この技法は、そもそも寝ているときにみる夢を題材にしています。夢はもちろん無意識の産物であり、心理的なブロックの外から、日常的な意識の検閲を受けずにやってくるものです。また、夢は「象徴表現」であるため、高度に右脳的でもあります。
したがってこの技法の場合、主眼は、「モヤモヤ」の部分に真っ先にメスを入れ、左脳的論理性ではなく、むしろ右脳の働き(直観力・想像力・洞察力・感受性など)を活性化させることにあります。これにより、ほとんど「問題の発現=解決策の創出」というところまで、プロセスが一足飛びに簡略化され、さらに出てきた答えは、論理的にうまく説明はつかなくとも、「ピンとくる」「腑に落ちる」「これだ、これに間違いない!」というものになるのです。
ただし、お断りしておきますが、集められた夢をトータルで分析する際には、極めて論理的な方法論を用います。これにより右脳と左脳のバランスがとれるわけです。
ただひとつ、注意が必要な点があります。
この技法により導き出された解決策を、「論理的ではない」といった理由で実践に移さないと、理性で納得できたとしても、直観や感情の面で、あるいは無意識裡に反発が生じ、事態をかえって悪化させないとも限らない、という点です。したがって、この技法によって導き出された解決策は、どれほど非常識で荒唐無稽で奇想天外なものでも、とにかく実行に移してみることが求められます。
■DI技法の導入事例
<事例1>
国際的に知られた経営セミナーの講師であるフランシス・メネゼスは、研究開発部門員の士気を高めるために1987年にインド政府直営の大規模化学工場に雇われました。彼は52人の研究員を集めて三日間のセミナーを開きました。毎夕食後に研究員たちは、職場での悩みを一言にまとめて紙に書き、それを封筒に保管するように依頼されました。そして、床に就くときにその封筒を脇に置き、書いた悩みに関する言葉に注意を集中し、そのことについての夢を誘発しようと望みながら眠りに落ちるように言われたのです。
その日以来、半信半疑だった者も含め、全員の研究員が、職場の悩みに関連する夢をみたと報告するようになりました。たとえばある研究員は、立派な業績を持つ同僚を非難する夢をみました。別の研究員は、わからずやの上司に研究室の備品を投げつけて攻撃する夢をみました。
メネゼスはこれらの夢をすべて分析し、それに基づく提案を会社の上層部に提出しました。感嘆した上層部は、研究所内のコミュニケーションを改善したり、より生産的な研究班を編成したり、より柔軟性のある労働環境を作るための数々の改革を実施しました。
一方、セミナーに参加したほとんどの研究員が自発的に毎週夢の研究会を開き、前週の夢について議論し、翌週のテーマを決める活動を始めたのです。
メネゼス曰く、「夢はいつも私たちがもっと大きな統合に近づくことを促しています」
<事例2>
以下にご紹介するのは、日本における(おそらく唯一の)DI技法の導入例です。
スタッフ40人規模の国内NPO法人でのこと。
法人の活動が停滞していて、組織の構成員に活気がなくなっていました。それを何とかしたい、という要請を受け、我々のチームがDI技法を導入しました。
同チームはまず、組織の主要メンバー8名を集め、「組織の停滞問題の原因と解決策を夢で導き出す」という想定で一晩夢をみてもらい、翌日それらの夢を持ち寄ってもらいました。そして、チームリーダーの指導のもと検討会を開き、複数の被験者の夢に共通に現れた項目をもとに解決策を導き出したのです。
その結果導き出されたのは、想いもよらない解決策でした。それは「全員が今持っている役割を交換する」というものでした。
それまでそのNPO法人は、ひとりひとりの得意なことを役割として振り分けていましたが、その役割を交換する、という解決策です。例えば経理担当で何年もやってきたスタッフが営業職に回る、といった具合いです。
半信半疑ながら、その通りにしてみると、とたんに組織の風通しがよくなり、全体に活気が出てきたのです。
企画が得意で企画の仕事をやっていた人は、それを皆に押しつけるような態度になっていたし、経理が得意な人は「経理の観点から言うと、この組織はおかしいじゃないか」と批判的になっていたのが、役割を交換してみたら、「他の部署の人の考え方、ものの見方というものに意味があったのだ」という認識が生まれたのです。
この法人の代表者も、「皆が自分の得意なことに専念することで、かえって硬直してしまい、守りの態勢に入っていたのでしょう」と納得していました。
これは関係者全員の無意識の中では、すでに気づいていた原因と解決策であり、夢を通してそれを導き出したからこそ、皆がその非常識とも思える解決策を受け入れることができたのです。これがもし外部のコンサルタントなどから「役割を交換しなさい」などと言われた場合、なかなか聞き入れられるものではないでしょう。